終わり良ければすべてよし!『天保十二年のシェイクスピア』
東宝ミュージカル『天保十二年のシェイクスピア』を観てきたので感想です。
※『天保十二年のシェイクスピア』および『朧の森に棲む鬼』のネタバレを含みます。

本編に入る前に。
日生劇場に入るのはたぶん二度目で、初回から何年も空いているのでうろ覚えなのだけど、劇場内こんなにおしゃれだったっけ…?
曲線が多くて壁は淡い色の石っぽい素材で、ディズニーシーのマーメイドラグーンみたいだと思った。
外観やロビーなどはシックなデザインだから、なんだか意外。
今回は2階席でした。
遠いけど、遮るものが何もなくて観やすかった!
開演前、サックスやフルートの音出しの音が聴こえてくる。
ちゃんとしたミュージカルだから当たり前といえばそうなのだけど、生音だ!と感動した。
今回、出演者に関する予習を全くしていなかったので、知っているのは浦井健治さん、唯月ふうかさん、中村梅雀さんの3名のみ。
ひとり何役もやるらしいけど、果たしてついて行けるのか…!
さて開演。
木場勝己さんが登場し、口上を述べる。
2020年に上演した本作だけど、コロナのせいで千秋楽を迎える前に上演中止となってしまった。今回は必ずや東京千秋楽を迎え、そして大阪を皮切りに全国ツアーも成功させてみせる。
という内容。
2020年版は知らなかったけど、何か月もかけて準備してきたものがあっさり中止となる無念さたるや。
4年の歳月を経て、キャストも少し変わってしまったけれど、それでも再演できる喜び。
想像しただけで涙が出る。
そして木場さん、口上が上手すぎて本職の方…?と思った。声もいいし歌もお上手。
一体あの役者さんは…?と気になって幕間にすぐ調べました。
歌も台詞も日本語の遊びというか、洒落が効いていておもしろかった。
結構くだらないダジャレも多い。
私は「老婆は一日にして成らず」が特に好きでした。
第一幕ではまだこの作品のコミカルとシリアスのバランスを掴みきれず、なんとなく置いて行かれた感があった。
あと、今まで観たどの舞台よりも下ネタが多くて、ちょっと困惑した。ネタと言ってしまうのは違うかもしれないけど。
物語上必要な男女のあれこれはウェルカムだし、ピンポイントでクスッと笑える下ネタも好きだけど、この作品に関しては第一幕ほぼずっと下ネタじゃなかった?ってくらいその印象が強い。
なので、序盤は正直どうしよう合わないかも…と思ってしまっていた。
でも第二幕からはすっかり引き込まれました!
当たり前すぎて逆に失礼かもしれないけど、皆さん歌がほんっとうに上手!
印象に残ったのはやっぱり木場さんと、唯月さん。
木場さんはミュージカル俳優さんではなさそうなので、さらにすごい!
三姉妹のお姉さんズも王次も、梅雀さんも、本当にみなさんお上手。
アンサンブルのみなさんのハーモニーも素敵だった!
実は今回、どういう物語、どういう役どころかも知らずに、浦井さんの歌目当てでチケットを取っていた。
浦井さんはもちろんさすがの歌声だったけど、役柄的に歌い上げるような曲がなくて少しだけ残念。もちろん自分のリサーチ不足のせいです。
でも低い声で怪しげな曲を紡ぐのにはゾクっとしたし、どんな体勢でも動きながらでも全く歌がブレなくてすごかった。
今度は歌い上げる浦井さんも観てみたい。
浦井さん演じる三世次は、終始怪しげな雰囲気を纏っていて良い。
その場面のメインの役者さんたちが演技しているときに、セットの屋根の上でそろりそろりと動き回っていたり。
王次とお光のラブシーンのときに、王次が掴むロープを一緒に引き上げているのが好きだった。
あと浦井さん、早口の長ゼリフが流れるようだったし、とても様になっていた!
浦井さんってキラキラ王子様みたいなイメージがあったけど、こういう陰湿な役も似合うんだな。これが演技力…
老婆たちが王次とお光を操って惚れ薬をかけるシーンは、動きも音楽も浄瑠璃っぽくて楽しかった。
人形ならぬ、人間浄瑠璃?
ああいう伝統芸能オマージュ好き。
シェイクスピアには疎いので東宝演劇部さん(@toho_stage)のポストで予習しようとしたものの、結局半分も読めず…
でも予習した内容がちょこちょこ出てきて、わかったときには嬉しかった。
唯一ちゃんと知っているシェイクスピア作品『ヴェニスの商人』が一瞬で終わったのにはウケた。
今言った!え、終わり…!?みたいな感じでした。笑
予習用ページもよかったら。
天保を観終わってからこっち見たほうが個人的には楽しめた。
ハムレットの台詞 ”To be or not to be, that is the question.” を王次が各年の日本語訳で遡っていき、隊長(木場さん)がそれを解説していくのが第一幕いちばんのツボだった。
2人とも早口だし順番間違えたら台無しだし、めちゃくちゃ難しそう。
それでちゃんとおもしろいのがすごい!
唯月さんの二役はすごすぎた!
二役以前に唯月さん、かわいらしいお顔と声をしているし、これまでかわいい役の彼女しか観たことがなかったのもあって、お光みたいなかっこいい女も似合うんだ!と驚いた。とても好き。
お光とおさちはタイプが正反対なので、声や歩き方、表情などが全く違って別人みたいに見えた。
プロの役者さんの演じ分け、すごい…
そして花見のシーンでの早替り、一度ならまだしも短時間で何度もお光とおさちを行ったり来たりしていてすごかった!
そのシーンのラスト、お光とおさちが2人で会話する場面では、1人ですべての台詞を言っているはずなのに2人の女性が本当に会話しているように聴こえて、感動ものだった。
お光の寝床からおさちの寝床に転換するシーンは、暗転したほんの数秒の間にセットの転換、唯月さんの早替り、役者の入れ替わりがすべて行われて、本当に見事だった…!
相当な練習とチームワークがなければ成功しなそう。すごかったな〜
ミーハー的には、宮川彬良さんを拝見できたのがかなり嬉しかった。
ある一定の年齢層の人はみんな幼少期にお世話になったはず!
バンド、あの人数で演奏しているとは思えないほどの音の厚さだったな〜
この作品を観るちょうど1週間前に、新橋演舞場で上演されている歌舞伎NEXT『朧の森に棲む鬼』を観ていました。
こちらもリチャード三世を下敷きにしているからか共通点が多かったので、ゾクゾクしながら観た。
第一幕、三世次が幕兵衛に言う「お前の剣術と俺の口で一緒に清滝村を手に入れよう」みたいな台詞は、朧の冒頭でライがキンタに言う台詞と重なる。
三世次が老婆から言われる「自分で自分を殺さない限り死なない」という予言は、ライが森でオボロたちと契約する「俺が俺に殺される時が来たら、おとなしく命をくれてやる」とほぼ同じ。
この「自分で自分を殺さない限り」を老婆と三世次とで何度もリフレインしていたのが印象的。ラストシーンに繋がる重要な予言、はっきりと記憶に残りました。
三世次が、自身が殺した代官の妻おさちに言い放つ「お前がいちばん俺を憎むときに俺のものにするのは快感だ」みたいな台詞も、朧でライがツナをものにしようとする際に言っていた。
これらがリチャード三世の内容を基にしたものなのかどうかは、サラッと調べた限りではわからなかった。
自分が殺した男の奥さんを妻にするくだりはあったようだけど。
おさちは「あなたを殺す下衆人にはなりたくない」という理由で手を下さないけど、三世次に鏡を見せ、その醜さを突きつけて絶望させる。
これこそがおさちの復讐。
これまで三世次が殺してきた人たちがみんな亡霊となって無言で三世次を見つめる演出がいい。
三世次は鏡を見るまで自分の外見を知らなかったのかな。
内面の醜さゆえに、想像以上に外見まで醜くなってしまっていたのかもしれない。
あの鏡は外見というより内面の醜さを映すもののような印象を受けた。
三世次が鏡を見て絶叫する瞬間に舞台のセットが全面鏡になり、客席にも光が当たって観客が映る演出が、なんだかとても残酷に感じた。
そしてやっぱり三世次にトドメを刺すのは、夫を殺されたおさちではなく、三世次のルーツである抱え百姓たち。
自分自身である抱え百姓(隊長)を殺したことにより「自分で自分を殺さない限り」を破って死んでしまったんだな…
これにて本編終了。
その後のカテコが楽しすぎたので後味よかったけど、ストーリー的にはまあ暗い終わり方ですね。
カテコではみんな楽しそうに歌っていてよかった!
客席降りもあって羨ましかったな〜
本編中に三世次が笑顔を見せることはないので、満面の笑みで歌って踊る浦井さんが見られてほっとした。
王次役の大貫さんと互いを讃えあったり見つめ合ったりしながら歌っていて和みました。
最後まで木場さんの語りがさすがで、笑って少しジンとして、多幸感溢れる終わり方だった。
これぞ『終わり良ければすべてよし』?
調べてみると、朧の演出を手がけるいのうえひでのりさんは2002年に天保の演出をしているらしい。
朧の初演(2007年)と重複しているキャストも多いので、見比べても楽しそう。
改めて、この2作品が同時期に同じ東京で上演されていることに縁を感じるなあ。
私は数年前にリチャード三世を観たのだけど、好きな俳優さんが複数出ているにもかかわらずあまりのついていけなさに意識を飛ばしたことがある。
それ以来「シェイクスピアは合わない」と意図的に避けてきたけど、今思えば事前知識がなさすぎたな。
今回の2作を期に再チャレンジしてみたくなったので、今度機会があったらしっかり予習して臨みたいと思います!