徒然なるまま

日々の記録

初観劇が彼らでよかった!新春浅草歌舞伎2025

今年、初めて新春浅草歌舞伎を観てきました。

新春浅草歌舞伎とは、毎年1月に浅草公会堂で行われる興行。

松竹によると「次世代を担う若手花形俳優が大役に挑む登竜門」だそう(歌舞伎美人より)。

今年は昨年までのメンバーから半数以上が入れ替わり、平均年齢がぐっと下がりました。

一世代前のメンバー、今見ると「若手」とは言えないくらいの実力派ばかりで、しかも喋りが上手い人ばかりで、こんなの絶対楽しいでしょ!観たかった…

…と、そんな思いで初めて観た世代交代1年目の浅草歌舞伎、すっごくよかった!

昨年までのお兄さんたちにも負けてないんじゃない?(そんなこと言ったら怒られちゃうかな。心意気的にね!)

第1部と第2部を通しで観たので感想です。

 

第1部

お年玉〈年始ご挨拶〉は中村鷹之資さん。

白塗りに裃を身につけた口上スタイルで登場。

次の絵本太功記で十次郎を演じるのに顔を白塗りにしているため、この格好となっているそう。

自分は橋之助さんから「主語がない」と言われるが、それは父(中村富十郎さん)譲り。

というか歌舞伎役者には主語がない人が多いです。

みなさんご存知のとおり天王寺屋は現在自分ひとりしかおらず…(知らなかったので驚いた。25歳がひとりで背負ってるの!?)

天王寺屋の裃を着るのは今回が初めてなので嬉しい。家紋が入っていて、鳩の胸の色(?)なんですよ。

…それからお父様のおもしろエピソードを軽快に話してお客さんを笑わせ、「隅から隅までずずずい~っと」の定型区で結び。これ初めて生で聞いたので感動した!

 

続いての解説は中村橋之助さん。

さすが、お上手!

帰ってからYouTubeの演目解説を観て比較したところ、劇場での解説のほうがよりシンプルだった。

絵本太功記 尼ヶ崎閑居の場を観る前に入れておくべき知識は「織田信長明智光秀に殺された」それだけです!

 

絵本太功記 ~尼ヶ崎閑居の場~

第1部、第2部共通の演目なので詳しくは第2部のほうで。第1部配役の感想だけ書きます。

 

十次郎を演じる鷹之資さん。

ご挨拶から間もなくの登場で大変。

最初のシーンが十次郎ひとりなのでプレッシャーがすごそうだけど、堂々と演じていてかっこよかった。

 

そんな十次郎の許嫁、初菊を演じるのは中村玉太郎さん。

初菊が鎧を引きずって運ぶのが本当に重そうに見えて、か弱い女の子が婚約者のために泣く泣く戦の準備をする切なさがストレートに伝わってきた。

その後のシーンであの重そうな鎧を全身につけて登場する十次郎の頼もしさもより引き立てているよね。

 

十次郎のお母さん、操を演じるのは中村鶴松さん!

いやー鶴松さんさすがでした…

本当に上手い!

派手な役ではないけど目を引く、気になる存在って感じ。

 

久吉を演じるのは中村莟玉さん。

莟玉さん、SNSやテレビで拝見して綺麗なお顔だなーとは思っていたけどお芝居を観たのはこの日が初めてでした。

最初の「どうしてもお風呂に入りたいお坊さん(橋之助さん談)」のときには「若くてかわいらしいお坊さん」という印象だったけど、終盤の久吉は打って変わって貫禄があった。

 

佐藤正清は尾上左近さん。

左近くん、まだ18歳(1月11日時点)ですって…

勇ましい武将の役だけど違和感なく立派だったな。

 

そしてそしてこのお話の主人公、光秀を演じた市川染五郎さん!

染五郎くん、この座組の中では左近くんに次いで若いのだけど、そうは見えない…

声がどっしりしていて、第1部の絵本太功記の中では群を抜いてたな。

第2部のご挨拶と夜の歌舞伎家話でお話されてたけどこの日は初代 松本白鸚さんの命日だったそうで、初代白鸚さんが演じられた光秀の写真を見て同じような隈取をしたとのこと。

この日限定の特別バージョンを見られて嬉しかった!

 

仮名手本忠臣蔵『道行旅路の花聟』落人

これとってもよかった!!!(基本的に全部とてもいい)

特におかるを演じた莟玉さん。

年相応の女の子のかわいらしさ、背負っている問題の深刻さ、それでも勘平を励まし続ける前向きさがあの短時間で伝わってきて、本当に魅力的だった。

動きはしなやかで女性らしいんだけど、切腹しようとする勘平の刀を取り上げて強引に止めたり「私の実家に行こう」と手を引く感じが芯のある女性って感じで好き。

終始かわいいお顔の中に憂いが見え隠れして、観ているこちらの胸もギュッとなったけど、勘平が切腹をやめて一緒に実家に行くことを決めたときの嬉しそうな顔!

おかるの心情が手に取るように伝わってきた。莟玉さんすごい。

1つ前が久吉だったから、そのギャップにもやられた。歌舞伎役者すごい。

 

勘平を演じたのは橋之助さん。

爽やかだった!第2部の光秀とのギャップがすごい。

道行というものを初めて観たのだけど、旅ならではの格好(笠とか風呂敷とか)が新鮮でした。

なかなか煮え切らない勘平に、そんなに死のうとしないでおかるちゃんと楽しく生きようよと思ってしまったけど、それだけ深刻な問題だということだよね…

 

そして、鷺坂伴内(玉太郎さん)の一味は何!?あんなに憎めない敵いる!?笑

…と思って調べてみたところ、敵だけどコミカルな演技で和ませる「半道敵(はんどうがたき。”半分道化の敵役”の意)」という役の種類があるらしい。

enmokudb.kabuki.ne.jp

 

歌舞伎でこういう役を観たのが初めてだったのでびっくりしたけど、言われてみれば現代の作品にも愛されライバルみたいなキャラクターたくさんいるか。バイキンマンとか。

100年以上も前からこういう役があったんだなあと感慨深い。

また一つ歌舞伎の知識が増えて嬉しいな。

今年の浅草メンバーの中で唯一、知識ほぼゼロで拝見したのが玉太郎さんだったのだけど、コミカルな役がとてもお上手だった!

第1部、重厚な絵本太功記と美しい落人を観て感じたことがいろいろあったはずなのに、終演後は頭に鷺坂伴内しか残っていなくてどうしようかと思いました。笑

 

あと、私が舞踊作品を観る際の密かな楽しみ、後見さん。

橋之助さんには中村橋三郎さん、莟玉さんと玉太郎さんには中村梅乃さんがついていらっしゃいました。

笠や桜の枝などの小道具を渡したり預かったり、衣装の乱れを直したりと、見ていて楽しい。

昨年8月の『紅翫』橋之助さんの後見をする橋三郎さんを見て後見さんに興味を持ったので、このコンビを見られて嬉しかった。

あと第2部の鶴松さんのときも同じことを思ったけど、莟玉おかるがあまりにかわいすぎて梅乃さん、衣装直すのドキドキしないのかなと思ってしまった…

私は双眼鏡で見て終始ドキドキしていました。

 

浅草メンバーの歌舞伎家話で橋之助さんが話していた、莟玉さんとの「一生忘れない始まり」の話、ジンとしたな。

新たな浅草メンバーを引っ張る2人がやる落人…アツい…!

 

こっそり書くけど、この回は劇団☆新感線の演出家いのうえひでのりさんが観劇されていました。

『朧の森に棲む鬼』に出演した(する)染五郎くんの繋がりだと思うけど、他の役者さんのことも知ってもらって何かに繋がったら嬉しいな。

 

第2部

ご挨拶は染五郎くん。

生声でお決まりの口上を述べた後、マイクを持って「さあ!ということで…」と急に出る名MC感。会場爆笑。

ひとりきりのご挨拶で自ら笑いをとろうとするなんて…大人になられて…と、染五郎くんを認識してまだ数年なのに昔から知っているかのような感慨を持ってしまう。

この日は初代白鸚さんの命日のため、ご挨拶の内容は高麗屋の紹介。

私別に高麗屋興味ないよって人は寝ててもいいですけど、数分なのでよければお付き合いください、とのこと。

祖父(白鸚さん)は歌舞伎だけではなくミュージカルなどいろいろなことに挑戦している。

声の出し方などを参考にしていて、自分がいちばん見習うべき人。

その弟である中村吉右衛門さん。

最後に歌舞伎座で演じた弁慶を2階席のいちばん後ろから観ていたけれど、舞台に出てきた瞬間にまるでこちらまで飛び出してくるような迫力があり、鳥肌が立った。

吉右衛門(さん)と言えば、お茶の間の皆様にとっては鬼平犯科帳のイメージが強いかと思います。

関係ないですが(ここで会場笑)父が鬼平を演じた『鬼平犯科帳 血闘』があさって初放送です。ぜひお願いします!

そんな父は、変な人です。

橋之助さんが鷹之資さんのことを「主語がない」と言いますが、父はそれ以上に主語がない。

父の話を最初から最後まできちんと聞いた上で「え何の話?」となります。

…とのこと。

血闘の宣伝のくだりで自分も出ていることを一切言わずに「父の」と言ったの素敵だなと思った。

あと、お父上が何言ってるのかわからないくだりで再現した「え何の話?」の言い方が、普通の若者が親に対してするのと変わらない砕け方で、なんだか新鮮だった。

幸四郎さんひいては高麗屋推しの私、高麗屋のお話聞けただけでも(全然「だけ」じゃなかったけど)第2部追加してよかった!と思いました。

 

解説は鷹之資さんでした。こちらもお上手だった!

 

春調娘七種

ずっと、綺麗〜!かわいい〜!と脳内でペンライトを振りながら観ていました。

前日に登場人物について予習していて、静御前と曽我兄弟って何か関係あるの?と疑問だったけど、どうやら関係ないらしい。帰宅後に観た解説動画で知って笑ってしまった。

現代でいうコラボものみたいな感じなのかな。それが200年以上も上演され続けているんだからおもしろい。

 

曽我兄弟のことを全然知らないのだけど、弟の十郎のほうが勇ましい性格なのかな?拵え的に…

もう少し知りたいなと思った。

優男っぽい玉太郎さん美しかったし、左近くんはかっこよかった!

 

そして鶴松さんは、本当にかわいい…!

お顔のつくりからか、七之助さん(クールビューティー代表)とかとはまた違ったキュートさがあるよね。

でも踊りは美しい。このギャップがたまらない。

ここでも双眼鏡でロックオンして観ていました。

後見の中村仲四郎さんの前に立って、汗を拭ったり髪の毛や衣装を直してもらったり。

おさげ髪みたいな部分(姫ジケというらしい)を直してもらうのが、距離も近いし真正面から顔を見ることになるし、絶対ドキドキするでしょと思ってた。不純でごめんなさい…笑

 

絵本太功記 ~尼ヶ崎閑居の場~

第1部と同じ演目を、配役を変えて上演。

この演目、全員にそれぞれ見せ場があっていいですね。

このページ↓によると、

enmokudb.kabuki.ne.jp

光秀が座頭、皐月が老女方、操が立女方、十次郎が若衆方、初菊が若女方と、一座の役者の役柄が揃うので襲名など大舞台で上演されることが多い。

とのこと。

言われてみれば確かに、登場人物の年齢と性別が綺麗にバラけている。

ということは、同世代ばかり集まって上演するのは逆に珍しいのかな。

 

好みの問題なのでどちらが優れているということはないけど、第2部のほうが役と役者が合っているというか、ストレートな配役という気がする。

意外性のある第1部もよかったけど、個人的には第2部のほうが好き。

 

十次郎の鶴松さん、鎧を全身につけて登場するシーンの「パーンッ!」って感じが輝いていたし、前半がキラキラしていたからこそ手負いで戻ってくるシーンがより痛々しく切なく見えた。

 

初菊は左近くん。

左近くんの女方はいつも絶賛されているなあと思いつつ初めて観たけど、確かに美しかった。

十次郎と初菊の掛け合いが美しくて切なくて、目が離せなかったな。

 

莟玉さん演じる操は、肝の据わった温かいお母さんという印象。

最愛の息子がボロボロになって帰ってきて、家では旦那がお母さんを刺しちゃって、間違いなく人生でいちばん混乱してる日のはずだけど、悲しみこそすれ大きく取り乱さないのがすごい。

このお家は操で持ってるようなものだと思う。

 

久吉を演じるのは染五郎くん。

貫禄あったな~!

7月の裏表太閤記幸四郎さんの秀吉を観ているから、印象が重なった。

 

佐藤正清は鷹之資さん。

割と体格がしっかりとしているから、勇ましい武将の役が似合っている。

久吉がお家の奥から、正清が花道の奥から、それぞれ名乗るところがワクワクして好き。

 

そして主役の光秀は、座頭の橋之助さん。

文句なしにかっこいい!

橋之助さん、体も大きめではあるけどそれ以上に大きく見えて、貫禄がすごかった。

 

第1部と第2部の違いとして特に印象に残ったのは、光秀と操。

光秀は、皐月を刺しちゃったことに気づいたときと十次郎がもうダメかもしれないと思ったときのリアクションが、染五郎くんと橋之助さんとで全然違った。

でも上手く言語化できない…

歌舞伎家話で「肚が違う」というお話をされていたけど、そういう違いなのかな。

光秀に関してはそもそも型が違うそうなので、もっとわかりやすい違いがあるのかもしれないけど。

もっといろいろ観て見る目を養いたい!

 

光秀よりも明確に違いを感じたのが操。

手負いの十次郎にまず操がかけよって、その後、操が初菊を手招きするという仕草が、鶴松さんと莟玉さんとで全然違ったのが印象的。

鶴松さんのほうがいい意味で軽いというか、本当の家族を呼ぶみたいな感じ。

莟玉さんは丁寧で、まだ完全に家族ではないお嫁さんへの気遣いが残っている感じ。

どちらも本当に良かったけど、鶴松さんのほうが「そんな気軽な感じなんだ?」と新鮮で印象に残っている。

 

棒しばり

ずっと楽しかった!

染五郎くん、本当に表情豊かで楽しそうだった。

8月の『鵜の殿様』のときも思ったけど、クールなイメージなのに役に入るとほぼ変顔みたいなひょうきん顔も披露してくれるから、そのギャップにやられてしまう。

シュテン様から入った人はびっくりしたんじゃないかな。

 

鷹之資さんの、棒に縛られたままの舞もお見事だった〜!

両手が使えない状況であんなに激しい動きをするなんて、私だったらこわいと思ってしまう。

歌舞伎役者さんみんな、何度も稽古して乗り越えるのかな。すごいな。

扇子キャッチの瞬間は観ているこちらも緊張したけど、見事一発で成功!すごい!!!

観客一同、盛大な拍手で鷹之資さんを称えました。

 

あとは、相手にお酒飲ませてあげるために器(甕の蓋だっけ?)を足で傾ける仕草とかがコミカルでおもしろかった。

1日の締めくくりに大笑いできて、いい演目でした。

 

最後に

今回、初めて古典の時代物を観たのだけど、思ったよりストーリー性もあるし知ってる役者さんばかりだしということで、身構えていた割には楽しめた。

でも感想を言葉にしようとすると「かわいい」とか「若いのにすごい」みたいなことばかりで(その感想が悪いとは思ってないけど)芝居そのものについては何も感じとれていないなと思った。

あくまで趣味なので楽しみ第一だけど、楽しむための手段として、もっと知識を身につけたり経験を積んだりしたいなと思いました。

とはいえ若手のみなさんが一致団結してひとつのものを作り上げる様子は見ていてアツかったし、宣伝など気合が入っていて1か月間お祭りみたいでずっと楽しかった!

いいお正月でした。また来年!