こんにちは。
シネマ歌舞伎『歌舞伎NEXT 阿弖流為〈アテルイ〉』を観てきましたので、感想を残したいと思います。
※ネタバレを含みますのでご注意ください。
シネマ歌舞伎とは
感想の前に、少しだけシネマ歌舞伎の説明を。
シネマ歌舞伎を制作する松竹のホームページでは、以下のとおり説明されています。
シネマ歌舞伎は、歌舞伎の舞台公演を高性能カメラで撮影しスクリーンで上映する、歌舞伎と映像制作の技術を積み重ねてきた松竹ならではの映像作品です。
劇場に足を運ばずとも歌舞伎の演目を観られるという手軽さがあります。
最近は、歌舞伎のような伝統芸能も映画館での上映やインターネットでの生配信などを積極的に行っており、新規ファンの獲得に力を入れている印象です。
舞台は生で観ることが醍醐味ではあるものの、歌舞伎を観に行くハードルは結構高いので、近所の映画館で2,000円程度で気軽に観られるシネマ歌舞伎は、歌舞伎に触れる最初の一歩としておすすめできます。
かくいう私もコロナ禍に軽い気持ちでシネマ歌舞伎を観たことがきっかけで歌舞伎を好きになった人間の1人です。
感想
『阿弖流為』は、2015年に新橋演舞場で上演された演目だそうです。
メインキャストは市川染五郎(現在の松本幸四郎※)さん、中村勘九郎さん、中村七之助さんの3名。
いずれも大好きな役者さんたちです!
※2015年上演当時の市川染五郎さんは、2018年に松本幸四郎を襲名しています。ここでは上演当時に合わせ染五郎さんと呼びます。
タイトルとメインキャスト以外の事前情報は一切なく観にいきました。
エンドロールで知ったのですが、演出が劇団☆新感線のいのうえひでのりさんだったようです。
言われてみれば、音楽や染五郎さんのお化粧に新感線っぽさがありました。
…と、調べていて知りました。もともと『アテルイ』は新感線の舞台だったのですね。それを歌舞伎版にリメイクしたようです。新感線版も観てみたい。
ストーリーとしては、朝廷による蝦夷の征伐が中心となります。
勘九郎さん演じる坂上田村麻呂は、征夷大将軍。帝側として、蝦夷を攻める立場にあります。
一方の染五郎さん演じる阿弖流為は、蝦夷の族長の息子。帝人軍から蝦夷を守る立場です。
2人はあることがきっかけで知り合い、お互いに認め合うのですが、立場上対立は避けられません…
そこでの葛藤や、七之助さん演じる立烏帽子(鈴鹿)との過去、その他の人物の裏切りなどが複雑に絡み合い、物語が進展していきます。
全体を通して、すっっっごくよかったです!
特に好きだったのが、田村麻呂と阿弖流為がお互いを認め合ったがために「なぜお前は蝦夷なんだ」「なぜお前は大和なんだ」と言い合うシーン。
相手への最大級の尊敬と、これから敵同士として戦わなければならない運命への悲嘆が表れています。
画面2分割で勘九郎さんと染五郎さんがそれぞれ映し出される演出や、音楽も相まって、ずっと鳥肌が立ちっぱなしでした。こんな経験は初めてです。
まだ序盤の、これから物語が動き出す…!というシーンで、ストーリー的に感動の場面ではないのですが、涙も出てきました。
上映中に何度も「これは生で観たかった!!!」と思いましたが、このシーンには映画版ならではの良さがあったと思います。
その前のメタ的な発言もよかったです。
染五郎さんと勘九郎さんがそれぞれリズムにのって派手な見得を切った後、別の演者が「なんでそんな大見得を切るんだ」とツッコみます。
染五郎さんと勘九郎さんが声を合わせ、「性(さが)だから」と答え、自分たち自身で「高麗屋!」「中村屋!」と大向うのかけ声をする、というシーンです。
こういった歌舞伎ならではの文化をコミカルにアレンジしてお客さんを楽しませる演出、大好きです。
また、七之助さんも本当にすごい役者さんです…
女方が美しすぎるのは大前提ですが、この作品では立烏帽子(鈴鹿に化けた荒覇吐(あらはばき)の神)と鈴鹿を完璧に演じ分けていました。
化ける側と化けられる側を演じるのって、とても難しいことだと思います。
化けるほうはできる限り相手に似せるので、はっきり別の役だとわかってしまうような演じ分けでは意味がありません。
その点七之助さんは絶妙なバランスで、本物の鈴鹿の登場後しばらくは、先ほどまで出ていた鈴鹿(=荒覇吐の神)との違いがわからず、その後荒覇吐の神が徐々に本性を現すに従って2者の違いが明確になっていきます。
これを演じ分けられる七之助さん、さすがです。
そして終盤、正体を現した荒覇吐の神が阿弖流為に「なぜ私のために戦ってくれぬのか!」と叫ぶシーンの迫力は本当にすごかったです。
荒覇吐は神様なので、男女の別や恋愛感情などとは無縁だと思いますが、ここでは阿弖流為に対する歪んだ愛情のようなものを感じてしまいました。
片岡亀蔵さん演じる蛮甲も、ストーリーの鍵を握る人物です。
亀蔵さん、『風の谷のナウシカ』といい裏切り者役が板についています(笑)
自分が生き延びたいばかりにあっちに寝返ったりこっちに寝返ったり。ずるい人間なのですが、どこか憎めません。
最後に阿弖流為を助けるために体を張ったシーンは、そうなるだろうなとは思いつつもやっぱり感動してしまいました。
最後に、再会した田村麻呂と阿弖流為がお互いに剣を抜き、1対1の真剣勝負が行われます。
阿弖流為の田村麻呂に対する全幅の信頼が表され、とても感動的ではあったのですが…
感情移入しまくって観ていることもあり「本当にこうするしかなかったのか、他に方法はなかったのか」と虚しさを感じずにはいられませんでした…
とはいえ、今後の蝦夷のことは、阿弖流為の意思を継ぐ田村麻呂に任されるようなので蝦夷も安泰です!
田村麻呂が決意を込め、亡くなった鈴鹿と阿弖流為に呼びかけて本編は終了します。
感動的な場面で終わった後の、ねぶた祭りのわちゃわちゃ感がよかったです。
この戦いがねぶたのルーツということは全く知らなかったのですが、阿弖流為と田村麻呂が並んでねぶたになっているのを見て、うるっとしてしまいました。
ねぶた祭りのシーンに阿弖流為と一緒に登場するのは、立烏帽子ではなく鈴鹿でした。
本編中では、回想シーンを除き2人が顔を合わせる場面はありませんでしたが、天国で再会して仲良く暮らせていたらいいなと思います。
映画版には、カーテンコールの映像も収録されていました!
染五郎さんが目の前のお客さんではなくカメラにずっと手を振るという小ボケをし、勘九郎さんが軽く叩いてツッコむ場面がかわいかったです。
歌舞伎の世界では、幼少期から同じようなメンバーで何度も何度も舞台をやってきているので、役者同士の結びつきも深いように感じます。
特に同年代役者さん同士の幼馴染感が好きなので、このカーテンコールはニコニコで見守らせていただきました。
さて、最後に総括的な感想を。
この作品はフィクションではありますが、阿弖流為と坂上田村麻呂は実在した人物です。
現在当たり前のように東北・北海道地方と仲良くできているのは、この作品を観た今、阿弖流為と田村麻呂のおかげだと思わずにはいられません…!
最後までお付き合いいただきありがとうございました!