三谷幸喜さん監督・脚本、長澤まさみさん主演の映画『スオミの話をしよう』を観てきたので感想です。
※ネタバレを含みますのでご注意ください。
個人的に想像していたほどの三谷感はなかったけれど、随所に三谷感が散りばめられていてよかった。
坂東彌十郎さん演じる寒川が疑われるシーンで流れる音楽は、古畑っぽかった気がする。
映画が始まるときに長澤さんの笑い声が水音とともに聞こえるのだけど、ラストシーンでも似た笑い声が聞こえて、ああ映画冒頭ではホテルでお風呂入りながら笑ってたのねと気づいた。
こういうところが三谷さんだよ!好き!
5人の夫それぞれが超個性的でおもしろい。
この作品の主役は長澤さん演じるスオミではあるものの、物語の大部分はスオミ不在のまま進んでいくので、実質的な主人公の役割は西島秀俊さん演じる草野が担っている。
その主人公たる西島さんが、奇妙な5人組を外から眺める立場の人ではなく、元夫のひとりというのがまたおもしろいと思った。
夫たちにはそれぞれ欠点があって、それゆえにモヤッとする瞬間もあるのだけど、スオミが夫に依存せず疲れたらすぐ離れていく性格なので嫌な感情が残らない。
幼い頃に親が3度離婚していてどんな父親が来ても上手くやれる…という、ともすれば「かわいそう」と描かれがちな境遇も笑いの要素にできているのがさすがだなあ。
スオミのソウルメイトの薊ちゃんの存在も大きい。
薊を演じる宮澤エマさん、大優勝では!?
どのシチュエーションでも常にスオミのそばにいて、なんだか探偵ものやスパイもののバディ感があって好き。
なんならスオミ以上に幅広い演技をしているくらいで、終盤のシーンで全夫から畳み掛けられる「あなたは◯◯(役柄)では?」の問いへの返しが素晴らしい。
遠藤憲一さん演じる元担任に声をかけられたときだけ、すぐには自分のキャラを思い出せないのに笑った。
そして関係者が一堂に会するこのシーン、三谷さんがやりたかったのはこれでしょ!
個性的な5人の夫とか、誘拐事件のトリックとか、そういうのはこのシーンをやるための壮大な前フリだったと思っている。
すべてはこの「長澤まさみが5人の夫を前に自分を使い分ける(しかもかなりの長回し!)」シーンをやりたいがための映画だったんじゃないかな。
そしてそれに応える長澤さん。
5つのキャラを完璧に演じ分けるのはもちろん、その切替の瞬間がおもしろい。
演技力の高い人が真剣にコメディに取り組むと、独特のおもしろさがある。
いろいろな表情の長澤さんを一度に見ることができて、ファンにとってもたまらないシーンだろうな。
スオミは極端すぎるとしても、家族、友人、仕事仲間など接する相手に応じてキャラクターを使い分けることは誰しも経験があると思う。
そのおかしみを膨らませて、この豪華キャストで作品を作り上げてしまうんだから三谷さんはすごい。実力と実績あってのことだなあ。
最後のショーのシーンもとてもよかった!
突然のヘルシンキヘルシンキ♪には戸惑ったけど(笑)弥十郎さんが…西島さんが…踊ってる…!と興奮した。
全体を通して、とても舞台映えしそうな作品だと思った。というか三谷さんは舞台を作りたかったのかな?
回想シーンは豊富だけどメインは寒川邸のリビングで展開される会話劇だし、ショーのシーンは言うまでもなく舞台向きの演出だし。
思えば私、三谷さんの映像作品は大好きなのに舞台はほぼ観たことなかった。
ちょうど来年、東京サンシャインボーイズが公演をやるとのことで、今からとても楽しみ!(チケットとれるかな…)
肩肘張らず気軽に観られる作品で、日曜の午後にぴったりでした。