ミュージカル『モーツァルト!』を観てきました。
だいぶ前に井上芳雄さんと山崎育三郎さんが歌番組で「僕こそミュージック」を歌っていたのを聴いて以来気になってはいたものの、観劇は今回が初。
一度しか観ておらず、理解しきれていないところも多々ありますが初回観劇の感想を残しておこうと思います。
※ネタバレを含みますのでご注意ください。
観劇時のキャストはこちら。
まず、会場に入った瞬間からテンションの上がるオーケストラの音出しの音。
生演奏の舞台自体3月の千と千尋以来なので、これだけで高まる。
開演直前のチューニングの音がばっちり合っていて(当たり前なんだけど)、かっこいい。
それから大きなグランドピアノの形をした舞台装置がとても印象的だった。
これが上演中何度も回転したり蓋が開いたり閉じたりして場面転換を効果的に見せる。
ピアノの形を生かしたシーンも多々あって、この作品ならではの仕掛けに感動した。
二幕の最後、キャスト勢揃いの歌唱シーンで主役2人がピアノの蓋の上から登場して、その上乗れるんかい!となった。
あと、五線譜を模した枠がついてる幕。
上演中にギューンと真ん中に寄ったり外に広がったりするのが新鮮でおもしろかった。
キャストについては、市村正親さん以外はみなさん初見だった、たぶん。
本当に失礼ながらチケットとるまで古川雄大さんを存じ上げなかったのだけど、初めてのモーツァルト!観劇が古川さんでよかった。
古川さんの演技すごいわ、アツい。
観劇が決まったのでさすがに少しくらい知っておこうとYouTubeの映像などを観たのだけど、イケメンなこともありクールな人という印象を持っていた。
それがあの熱演!
泣きの芝居のときは本当に目がキラキラしていて引き込まれた。
双眼鏡で観ていて、何度か切ないような苦しいような、彼と私の人生がシンクロしているような、なんとも言い表せない感情になった。
あとミュージカルで主演をやる俳優みんなに言えることだけど、あれだけの声量で毎日歌ってるのすごすぎないか…
想像以上に古川さん演じるヴォルフガングがほぼ出ずっぱりだし、体力すごすぎてびっくりしてしまった。
全力で演じ切った後、脳に酸素回ってなさそうな状態のカテコで話してくれた「一緒に作品を作り上げてください」って言葉、忘れられないな。
市村正親さんは言わずもがなの演技力と歌唱力。
単に歌が上手いだけではなく、悲しいシーンでは心配になるくらいしょんぼり歌うのに誇らしげなシーンではものすごく張りのある力強い声で歌っていて、その切替に圧倒された。
既出かもしれないけど、市村さんが仮面をつけて現れると突然オペラ座感が出るのおもしろい。
というか仮面舞踏会のシーンはオマージュか何かなのかな。
ヴォルフガングの悪夢が必ずしも仮面舞踏会である必要はない気がしたけど。
久しぶりに市村ファントムが観られて嬉しかったです。
大塚千弘さん、すっかりミュージカル女優さんですね。
想像してた以上にかわいらしく少女のような、でも芯のある声。
父と弟を想ういいお姉さんで、この作品でいちばん感情移入してしまった。
父が大切で弟にはザルツブルクに残ってほしいけど、でも弟の夢も応援したい、みたいな揺れ動く感情。
結婚資金を弟のために使って恨み言も言うけど、ウィーンでの弟の成功を喜んでもいる。
だんだん複雑になる姉弟関係だけど、そんなの知る由もない一幕序盤のちびモーツァルトを見守るナンネールがよかった。
その後成長したヴォルフガングに赤い衣装見せてもらうシーンも好き。この姉弟かわいい。
山口祐一郎さん、歌ももちろんお上手だけど、何よりいい声!
一言喋るだけで迫力がすごかった。
一応敵役ではあるけど、山口さんが出てくると嬉しかったな。
コロレド大司教はいろいろと邪魔をしてくる鬱陶しいやつだけど、ヴォルフガングの才能を認めていて。というかもう魅せられていて、彼がもう少し理解ある扱いをしてくれていればモーツァルト家はバラバラにならずに大成功できたのに、と思ってしまう。
コロレドとアルコ伯爵が馬車で移動するときに、御者の2人が曲に合わせて揺れてるのがおもしろかった。
コンスタンツェは、一幕では控えめな女の子という印象だったけど二幕序盤の「ダンスはやめられない」でガラリと印象が変わった。
歌唱力はもとより、迫力がすごかったな。
真彩希帆さん、元宝塚の方だそう。さすがだ…
途中まで、墓荒らしに来てる元妻とコンスタンツェが同一人物とはとても思えなかったんだけど、浮気を疑って、その他にもいろいろな不満が積み重なって、すれ違ったまま死んでいったからああなってしまったのかな。
一時はあんなに愛し合ってたのに…悲しい。
そしてここから、この作品で特に気になったお二人!
お一人目は、ヴァルトシュテッテン男爵夫人を演じた香寿たつきさん。
歌が…お上手すぎる…!
いや出演者みなさん歌が上手いのは大大大前提として、それにしてもさ…!
音源流してる?ってくらい正確なのに、機械的ではなくて情感こもってるというか、豊かというか…
とにかくすごかった。
歌だけで感動したのは久しぶりな気がする。
元宝塚の方がたくさん出ているのは把握していながら、特にどの役の方というのは一致させていなかったのだけど、香寿さんに関しては最初の一音くらいで「これは…!」と気づいたよね。
本当によかった!
モーツァルト!の曲全体的に好きなのでどれかしら音源を入手したいんだけど、どうせなら香寿さんバージョンの「星から降る金」が欲しい。入ってるアルバムあるのかな。
そしてもうお一人。
シカネーダーを演じた遠山裕介さん。
役も好きだし、その役に遠山さんがとても合っている。
シカネーダーはどこかでヴォルフガングを裏切ったり利用したりするのかと思ったけど、最後まで味方でいてくれて嬉しかった。
よきビジネスパートナーであり、友人でもあったのかな。
ヴォルフガングが他の友人に金を貸すのを渋っているときに「やめてやろうぜ」みたいなことを言ってくれたのが印象的だった。
遠山さんは、いかにもミュージカル俳優!って感じ。
ちょっとコミカルな喋り方も歌もとてもお上手で、なんだかジーニーを彷彿とさせた。
お顔も、メイクもあるのだろうけどとてもミュージカル向きだと思った。
彼の出る作品を他にも観てみたい。
内容については、正直理解しきれていない部分が多い…
大枠は掴めたし、むしろシンプルなストーリーという気もするのだけど、なぜそうなった?とか今どういう感情でその行動をした?とかをもう少し拾えたほうがより楽しめただろうなと思って。
ミュージカルだから当然歌詞をちゃんと聴かないとわからない部分があるのだけど、初見ゆえ見るもの聴くものすべてが新鮮で、役者さんの美しい顔や衣装に注目したり、歌上手いなあ、この曲調好き、など意識が分散されて歌詞を聞き飛ばしてしまった箇所が結構あった。
普段あまり同じ作品を何度も観ないタイプなのだけど、モーツァルト!に関しては自分の中でまだ完成されていないというか、もう少し咀嚼したいなあという感覚。
何度か観てわかってくることもあると思うので、これはぜひもう一度観たい。
観る前は重厚な作品という印象を抱いていたけど、明るいダンスシーンや観客盛り上げコーナーもあって意外だった。
盛り上げ役のシカネーダーがとても良いし、ブロードウェイっぽい演出(でいいのかな?)が好み。
一幕の、ヴォルフガングが連れ込んだ女の子を父から隠すシーンで転んだのはハプニングなのね。
あまりにも転び方が自然だったので、芝居と言われてもわからなかった(笑)
観客がみんな笑っていてハプニングだと気づいたんだけど、そんなことよりあそこで笑っていたお客さんみんなリピーター(あそこで本来転ばないことを知っている)という事実に驚いた。
その直後の市村レオポルト「何をしているんだ?」古川ヴォルフ「転んだ…し、作曲を!」のところ笑ってしまった。
こういうアドリブは大好物です。
ヴォルフガングは自らの才能を盾にもっと家族を蔑ろにする人なのかと思っていたけど、想像より家族想いというか、家族から嫌われることを恐れているように見えて、それは栄光を手にしてからも変わってないのが意外だった。
昔からその才能だけが持て囃されて、自分自身が愛されてる実感は得られなくて愛に飢えてたのかなあ。
成功した姿を父に見せて、やっと認めてもらえる!と何より嬉しそうで、それなのに父に冷たく突き放されて。
痛々しくて、胸が締め付けられる思いだった。
「裏切られた」という家族からの手紙に「違うんだ!」と必死になるし、結婚する姉にお金を送ろうとしているし。
だからこそそのお金をあっさりと友人たちとの宴に使ってしまうのにガッカリした。
作中で描かれているのは1回だけだけど、たぶんお金が入るたびにああいうことを繰り返していたんだろうな。
一度でもお金を送っていたら家族との関係ももう少しマシだったのではという気がするのだけど、そうできない心の弱さは、「自分の足で立って」いない未熟さゆえか…
一幕最後の「影を逃れて」はすごい演出だったな…!
まずバックコーラスの迫力がすごかった。
そして自分の才能の権化であるアマデに傷つけられるというのが、驚いたけどヴォルフガングの苦悩を表すのにぴったりの表現だと思った。
このヴォルフガングを刺すアマデの影がバックに大きく映っているのも、なんだかゾクっとしたな。
アマデちゃん、一言も喋らないしほぼ真顔なんだけど、ヴォルフガングとコンスタンツェのラブシーンのときは心底白けた表情をしていてよかった(笑)
あと二幕のヴォルフガングの家のシーンで、うるさい大人がいっぱい入ってくるぞと察して早めにピアノの下に避難するのもかわいい。
アマデは「悪魔」なんて言われてしまっているけど私にはそうは見えなくて、状況によってヴォルフガングの敵にも味方にもなる存在だと感じた。だからこそ「自分自身」なのだろうなと。
この作品を「難しかった」と感じる要因の大部分がこのアマデの存在なんだけど、台詞や表情がないから感情が読めないのよね。というかアマデ自身に感情はなくて、基本的にはヴォルフガングの感情がアマデに投影されている。でもそこが必ずしも一致しているわけではないから難しい。
ヴァルトシュテッテン男爵夫人がヴォルフガングにウィーン行きを勧める場面で、ヴォルフガング自身ははじめ少し葛藤している様子を見せていたのに対してアマデは最初からヴォルフガングの手をぐいぐい引っ張って「行こうよ!ほら!」って感じなんだよね。
ヴォルフガングの深層心理がアマデを動かしているのかな。
そう思って観ていたから、父の死を知ったシーンでアマデがヴォルフガングの首を絞めたときには自分を責めてるんだなあと感じたし、最後ヴォルフガングがアマデの持った羽根ペンで自分の心臓を刺すシーンには限界を迎えたんだなあと思った。
最終的に父とも姉とも妻とも分かり合えず、孤独なまま死んでいったのが悲しい。
アマデはヴォルフガングを縛りつける存在でありながら、唯一離れていかなかった心の拠り所的な存在でもあったのかな。
ヴォルフガングの死後、才能の箱を見つけて穏やかな表情をした(ように見えた)ナンネールに少しだけ希望を見出すことができた。
で、ここからは未来の自分のために、本当にわからなかったことを書き記しておく。
もし数年後また観劇することが叶ったら、もしくは我慢できずに映像を観ることにしたら、この辺りに注目して観てください。
- 結局レクイエムの作曲は誰が何のために依頼した?
→死んだ父が、ヴォルフガングの死の匂いを嗅ぎつけてやってきた?ヴォルフガング自身が自分の死を察してレクイエムの作曲を依頼される幻覚を見た? - 墓荒らしは結局何だった?
→コンスタンツェはただの案内人だとしても、残る2人がよくわからなかった。コロレドが芸術家などの脳みそをコレクションするという設定があったけど、その一環?最後に頭蓋骨を見つけるシーンはあったけど、脳みそではなく頭蓋骨でも良いのかな。
最後に、カーテンコールの印象的なシーン。
市村正親さんが主役の1つ前の順番だったのだけどおそらく微妙に押していて、曲がいちばん盛り上がるジャーン!ってところに主役の登場を間に合わせるために、自分の挨拶をチャチャッと済ませたのプロだなあと感じた。
そもそも市村さんが挨拶の位置を間違えるという小ボケ?天然?をしなければ間に合った気はするけど(笑)
アマデ役の星駿成くん、最初のカテコはいたけど2回目はいなかったような気がする。
21時過ぎちゃってたのかな。
最後に一度でもアマデちゃんの笑顔が見たかった…
駿成くんとてもいい演技だった。お疲れ様でした!
そして冒頭でも触れたけど古川さんのご挨拶。
言葉に詰まりながら一言ひとこと絞り出すように観客への感謝を伝えてくれた。
おそらく長年応援してくれているファンに向けての想いが強かったとは思うけど、はじめましての私も勝手に自分への言葉だと受け止めさせていただきました。
何度でも言うけど初めてのモーツァルト!観劇が古川さんでよかった。
素敵な作品をありがとうございました!