徒然なるまま

日々の記録

歌舞伎の楽しいところ詰め合わせ!『裏表太閤記』

歌舞伎座の七月大歌舞伎夜の部『千成瓢薫風聚光(せんなりびょうたんはためくいさおし)裏表太閤記(うらおもてたいこうき)』を観てきたので感想です。

序幕

悪名高き武将、松永弾正の館の場面からスタート。

弾正を演じる市川中車さん、序盤から悪い顔してて裏切る予感しかしない。

案の定すぐに裏切りました。迫力あるな。

 

明智光秀を演じる尾上松也さん。

バラエティのイメージが強いけど、真面目な役を演じるときはちゃんと歌舞伎役者さんだった(失礼)

声色とかがまるで違っていて、目閉じて聴いたら誰だかわからないくらい。

「馬盥(ばだらい)の光秀」という言葉だけは聞いたことがあったけど、なるほどそういうことか。

あれは屈辱。謀反も納得です。

織田信長役の坂東彦三郎さん、初めてお目にかかったけど、よく通るいい声が印象的だった。

 

ここの場面転換で、こちらのポストで紹介されていた「出投げ」を見られた!

ゴザはとても重いそうで、あんなにまっすぐ投げられるのすごいわ。会場中から拍手が起こっていました。

こういうの、知らなかったら特に気にしないで過ぎていってしまいそうだけど知ってたら楽しみポイントが増えるから、教えてくれてありがとうございますの気持ち。

もちろん自分からも情報取りにいくべきだけど、そもそも知らなければ調べることすらできないものもあるので、有識者の方はこういうのどんどん発信してほしい!

 

織田信長の息子、織田信忠を演じる坂東巳之助さん。

映画『朽ちないサクラ』を観てから気になり始め、割とすぐに歌舞伎で観ることができて嬉しい。

表情豊かな役者さんなんだな。

さっきまで腰元さんたちやお通さんにデレッデレしてたのに、敵が現れたらキリッと引き締まった表情に切り替わる。

緊迫感が感じられてとてもよかった。

 

明智光秀の妹で、信忠の妻(でいいのかな?)お通を演じる尾上右近さん。

右近さんの女形かわいいな!

どちらかと言えば男性的なお顔をしていると思っていたので、あんなに女形が似合うとは予想外。

お通さん、なぜそんなに戦えるのでしょうか。

武将の家の生まれだと、女性も訓練を受けるのかな。薙刀捌きがお見事でした。

赤ちゃんが泣いてしまったときに薙刀キラキラさせてあやすのおもしろい。

一度目は1人でやって、花道で敵に襲われたときも敵に薙刀つかまれた状態でやってたよね。

片手に赤子、片手に薙刀で子守と戦いを同時にするの、器用すぎる。

 

信忠がお通さん大好きなのが伝わってきて、このシーンは終始ニヤニヤだった。

2人とも強いし、アイコンタクトで意思疎通してるし、いいコンビだったな。

信忠が三法師(赤ちゃん)をお通に託して死ぬシーンは切なかった。でもとても美しかった…

 

三法師を狙っている十河軍平。

その手下たちのアクロバットがすごすぎて、目が離せなかった。

斬られてバク宙したり、高く飛び上がったり。

敵だし名もない役だけど、こういう方たちがお芝居に華を添えてくれているんだよなあ。

 

ここで序幕は終わり。

1時間、あっという間だった!

序幕には幸四郎さんも染五郎くんも出ないのですね。

 

二幕目

二幕目もう1回観たい!良すぎたんですけど!

 

市川寿猿さんの94歳ネタには大拍手&大喝采でほんわかムード。

ご本人もおいしいと思ってるのが伝わってきておもしろかった。

こういうのいいな~

 

そしてようやく、松本幸四郎さんと市川染五郎くん親子が登場!

まずは染五郎くん。幸四郎さん演じる重成の息子、鈴木孫市を演じます。

なかなか家に入れなくて草むらに隠れたり、家の周りをうろうろしたりしているのが不憫かわいい。

声はどんどんしっかりしてきていて、踊りは軽やか。

もうすっかり大人の役者さんだな。

 

続いて幸四郎さん。

この場面では軍師の鈴木喜多頭重成を演じていて、重職に就いているだけあり貫禄がすごい。

後に本心でないことがわかるのだけど、この場面では自分(の家)本位で冷徹な男を演じているので、ほぼ無表情。

この場面は、義太夫狂言というのでしょうか。義太夫に合わせて役者さんが台詞を発したり踊ったりする形式で展開していきます。

話の流れもわかりやすいし、テンポが良くて好き。

 

事前に予習してたから話の流れや今後の展開は知っていたけど…

泣きました。

孫市に気づいて、あえて聞かせるように主君に背くトンデモ計画を話す重成。

即座にこの計画を思いついて実行に移せるのは、さすが軍師。

一応孫市のほうから斬りかかってはいるけど、刀が重成のお腹に刺さったのは間違いなく重成自身の意思。

そこで放った台詞「でかした倅」うわー泣いちゃうわ。

重成と孫市の親子物語であると同時に、浅路さん(市川笑三郎さん)と重成親子、関の谷さん(市川笑也さん)と孫市親子の物語でもありました。

なかなか父に手を下せない孫市に、重成がかける言葉とまなざし…

父の命を無駄にしてはいけないと覚悟を決めた孫市のキリッとした表情、よかった。

 

その後の3人で悲しみに浸る場面で、孫市が母と祖母の肩に手をかけてなぐさめるようにするのもよかった。

今後このお家に何かあっても、孫市は命をかけてお母さんとおばあちゃんを守るんだろうな。

 

そしてどこか遠くから、さっきまで聞いていたような声が聞こえてきて本日の主役、羽柴秀吉さんが登場!

首を斬られてから母・妻・息子が悲しんでいる間に急いでお着換えして秀吉になったのかと思うと、少しシュールです。

衣装は豪華だし家来もたくさん引き連れていて華やか!

秀吉は先ほどの重成の行動を知っていてその覚悟を評価し、和睦を受け入れることにしたと。

(見てたなら重成死ぬ前に止めてよとかそういうことは考えてはいけない)

秀吉が孫市に「よき父を持たれたな」と声をかけるところは、あえて声高に台詞を発していて観客一同大爆笑。

孫市の父=重成(さっきまで自分が演じてた)と、染五郎くんの父=自分、という二重の意味がかかっています。

こういう笑いを入れてくれるのが本当にいい。歌舞伎っておもしろい!

 

姫路の陣所の場面では、秀吉、秀吉にお供することになった孫市、三法師を連れたお通さんが集合。

右近さんはやっぱりかわいい&強い。

この場面からの転換すごかったな~!

3人が横一列になったかと思ったら、背景と3人の衣装が同時に早替り。一瞬で海の上の舟へ!

双眼鏡で1人ずつの早替りと背景の転換を代わる代わる観たのですが、いかんせんスピーディーなので追いつかない。

もう1回観たい!あわよくばマルチアングル映像がほしい…

このあたりから、いい意味でストーリーよりも見栄えを重視した、ショーみたいな内容になっていく。

 

舟と海は、3月に観劇した『ヤマトタケル』っぽいなと思っていたら、本当にヤマトタケルになぞらえてお通さんが入水してしまう。

米吉さんの弟橘姫を思い出したな。

とても美しかったし観られてよかったけど、ストーリー的には悲しい。

赤ちゃん残して死なないでよ…

 

そして、満を持して松本白鵬さんご登場!海の神様、大綿津見神(おおわたつみのかみ)を演じます。

もうここでは観客一同、白鵬さんが出てくるのがわかっているのでフライング拍手!

割れんばかりの拍手に迎えられて、本物の神様と見紛うほど神々しい白鵬さんがゆっくりと登場します。

高麗屋三代が揃うシーン、とってもよかったな…

義太夫の中で「高麗へ」みたいな一節があった気がするけど、どうなんでしょう。あったら胸アツ!

その後の空のシーンは、なんだか夢の中みたいだった…

貴重な高麗屋三代のシーン、しっかりと目に焼き付けました。

でも今後、何度も機会がありますよう!白鵬さんいつまでもお元気でいてください。

 

その後、幕外でのお芝居。

内容としては、光秀の家臣である但馬守(市川青虎さん)が秀吉軍に向かって攻めてきた!というだけなのだけど、次のシーンが本水で準備に時間がかかるので結構長めのシーン。

そのぶん観客を飽きさせない工夫が凝らされている。

まずは、兵士のみなさんが列をなして1階席の通路に駆け込んでくる。

剣を掲げて走り抜ける人もいれば、敵味方入り乱れて剣で戦いながら通り抜けていく人たちもいる。

ものすごい迫力だった…!

剣がこっちに飛んできたらどうしようとか、何かの間違いで剣が本物だったらどうしようとか考えてしまった。

そして、頭上からも声が。

私は1階席の後ろのほうにいたので頭上で何が行われていたのか全く見えなかったのだけど、どうやら2階席と3階席にも兵士が現れて台詞の応酬が行われていたらしい(会話は聞こえたけど階を跨いでいたことは知らなかった)。

見えるお客さんみんな楽しそうだった。観たかったな~!

 

それから、今回とても楽しみにしていた本水。映像では観たことがあるものの、生では初めて。

涼しげでめちゃよかったし、事前に観劇レビューか何かで見ていたとおり、幸四郎さんが本当に楽しそう。

滝に打たれながら3人並んで見得を切るところはとてもかっこよかった!

松也さんが幸四郎さん染五郎くん(と見せかけて客席)に向かって足で水をバシャバシャかけていて、前方席のお客さん絶対ビショビショだよね。

楽しそう…!

本水は、想像していたよりも短かった。

もっと長尺で観たかったな~!準備に時間かかるんだからもっと長くやったらいいのに。

でも、水の中に長時間いるのは役者さんの体力的にキツいか。

冷静に考えて、4時間の舞台で水に入ったり飛んだり、幕間も休憩ではなく次の出番の準備をしてるんだろうし。

それを毎日って、すごい体力だ…!

 

これにて二幕目は終了。もう1回観たい!

 

大詰

総じて夢の中みたいだった。

「猿」という共通項だけで秀吉の物語に突然西遊記がぶっこまれるし、「夢であったか」の一言でまた突然戻ってくるし。なんでもアリか!

 

幸四郎さん演じる孫悟空の動き、コミカルでとてもよかった。

歌舞伎の基本は残しつつ、重成や秀吉のときとは全然違う踊りになるのね。

軽やかで、宙乗りの前からすでに宙を舞ってるかのような動き。

二幕目では貫禄がすごかったけど、孫悟空のときは20~30代の若手にも見えたな。

天帝のお屋敷?の欄干にヒョイッと飛び乗ったり飛び降りたりするのもすごく軽やかだし、如意棒捌きもお見事。

技術のある方が本気でふざけると(ふざけてはいないんだけど)いくらでも見ていられるな~と思った。

何より幸四郎さんずーっと笑顔で楽しそうなのが本当に良かった。

 

これは完全に私のミスなのですが、宙乗り楽しみにしてたのに最初のほうしか見えない席をとってしまった…!

ふわっと浮き上がったのを最後に、3階席方向に進んでいくと全く見えない…

壁に映る幸四郎さんの影で、何やらコミカルな動きをしていることはわかったものの、それを生で見たかったよ~という気持ちに…

リベンジしたい…

 

孫悟空だけでなく猪八戒も飛ぶ、ということはXか何かで見て知っていたけど、まさか沙悟浄も浮くとは!

猪八戒役は市川青虎さん、沙悟浄役は市川九團次さんです。

青虎さんの腕力がすごいのか、九團次さんの青虎さんへの信頼がすごいのか。

裏で2人を持ち上げている大道具(機械、スタッフさんともに)がすごいのか。

観ているこっちがヒヤヒヤしてしまうくらいでしたが、本人たちは笑顔。すごい…

盛大な拍手に見送られて、猪八戒だけが旅立って行きました。

 

次に幕が開いたら、そこは大阪城

少し前までふざけていた(ふざけてはいないんだけど)孫悟空は鳴りを潜め、そこにいたのはうたた寝から覚めた秀吉。

さっきまでのキテレツ西遊記はまさかの夢オチだったと。

知ってはいたけど、これは笑わずにいられない。

大阪城大広間の背景はとても豪華だし、秀吉といえばの真っ白な着物はどう見ても位が高い人のそれ。

ここに中車さんを含む3人がやってきて、天下泰平のため三番叟を舞うように秀吉に勧める。

余談ですが、このシーン以後に登場する人たち、徳川家康北政所前田利家といった錚々たる偉人の名前がついているけど正直知っておかなくても影響はないかと思います。

ここからは完全に目と耳で楽しむショーなので、舞台上にいる人たちが誰であろうとあまり関係ないかなと…

知ってたらより楽しめる可能性はあるけど、歌舞伎初心者における予習順位は低めです。ご参考まで。

 

舞台上には義太夫長唄?の方々が勢ぞろい。

(知識がなくなんと呼ぶのかわからない。軽く調べてみたら種類が多すぎて余計混乱した。興味はあるので今後勉強していきたいな。)

www.fujingaho.jp

背景も華やかで、まるで新年のよう。

 

まずは家康(中車さん)たち3人が翁と千歳の舞を。

それから待ちに待った三番叟。

このタイミングで、背景がまた一段と華やかな桜満開の春の景色に変わる。

絵本みたいにぱたんとめくって舞台が変わるのすごかった!

 

三番叟は、まるで映画のエンドロールとか舞台のカーテンコールみたいなお祭り感。

2人ずつ順に登場して舞っていく。

まずは花道から、染五郎くん右近さんコンビが登場。染五郎くんは黄色、右近さんは紫色の衣装を身に着けている。

続いて舞台上手側から、巳之助さん松也さんコンビ。巳之助さんは緑、松也さんは青の衣装。

若いほうから年齢順に出てくるのがいい。まさにカーテンコールみたい。

そしてカーテンコールだったら舞台上の全員に手で招き入れられるところで、幸四郎さんが舞いながら登場。衣装は、肉眼ではオレンジ色に見えたけど、この動画だと赤に見えるな。

幸四郎さん、踊りはやっぱり抜群に上手いし、表情も楽しそうなのがいい。

 

全員が揃うと圧巻。

5色の着物を着た5人が、時には横一列で、時には他の4人が幸四郎さんを囲むようにして、フォーメーションを変えながら舞う。

さっきまでカーテンコールみたいと言っていたけど、5人揃っての舞はもはやアイドルライブだった。

三番叟のシーンだけでいいからペンラ振らせてほしい。私はオレンジを振ります。

 

踊りが揃うときもあれば、2人ずつくらいで違う動きをしているときもあった。

双眼鏡で推しに寄って観たいけど、他のメンバーも観たいし…

目が足りないとはこのことかと思いました。

 

みんなで花道まで来て舞ってくれて、このグループはファンサも充実している。

足を踏み鳴らすのが5人でぴったりと揃っていて、音が会場内で反響してすごい迫力だった。

そういう技術なのだろうけど、孫悟空のふわっと軽やかな着地と、三番叟のダン!という重厚感ある着地が同一人物とは思えなかったな。

最後は再び横一列で舞い、我らがセンター幸四郎さんが一段高くなっている台の上へ。残る4人がそれを取り囲んでみんなでポーズを決め、幸福感に包まれて幕となります。

 

いや〜楽しかった!

楽しいという表現がぴったりな気がする。完成された作品を観ているんだけど、まるで自分が入り込んで体験しているような感覚。

歌舞伎の楽しいところ詰め合わせ!みたいな演目で、ちょっと長めではあるけど歌舞伎初心者(自分含め)も楽しめる作品です。

もう1回観たいよ〜!