徒然なるまま

日々の記録

絶妙なバランスの映画『ラストマイル』

満島ひかりさん主演の映画『ラストマイル』を観てきたので感想です。

※ネタバレを含みますのでご注意ください。

 

本作は、野木亜紀子さんが脚本を手がけ、同じく野木さん脚本のドラマ『アンナチュラル』『MIU404』のメインキャストが勢揃いということで、公開前からとても盛り上がっていました。

アンナチュラルはリアルタイムで観ていたものの時間が経ちすぎてうろ覚え、MIU404は家族が観ていたのを横で流し見していた程度で、ほぼ内容を覚えていませんでした。そんな私の感想。

 

いろいろな感情はあれど、とりあえずすごくよかった…!

 

あれだけの豪華キャスト、濃いキャラが揃っていながら一切喧嘩せず、物語を構成するピースとして存在しているのがすごい。

野木さんもXで言っていたとおり「彼らは彼らの仕事をしている」だけ。

登場人物ひとりひとりがそれぞれの場所でそれぞれの仕事を全うし、生活を送っているだけ。

現実世界と変わらない。それがすごくリアルだと感じた。

 

アンナチュラルとMIUメンバーの出演は、「ファンにとってはたまらないけど物語的には不自然に詰め込んでる感」があったら少し嫌だなと思ってしまっていたけど、全く違和感なかった。…いや、野木さん脚本にそんな心配は失礼なのかもしれないけど。

私が「シェアード・ユニバース作品」を書いたら絶対にアンナチュラルメンバーとMIUメンバーを会わせたくなっちゃうけど、そういうことしないのが自然でいい(でも会ってるところも見てみたい)。

 

岡田将生さんはやっぱりイケメン。

顔がいいのにそれに甘んじず、演技力もちゃんと高いのが素敵。

エレナ(満島ひかりさん)と出会った当初、エレナに詰められて少し怯むような表情をしていたのが印象的だった。

フィクションでよく描かれる「無気力無関心だったけど徐々に心を開いていく若者」ポジションでありながら、それらがいちいち大袈裟じゃなく自然なのがよかった。年齢的にもちょうどいい。

犯行予告のウェブCMを見つけるシーンで、株価下落を防ぐためすぐには警察に通報しない選択をするエレナに対して岡田さん演じる孔はきちんと怒っていて、良識を持った社会人だ…とホッとした。

 

満島ひかりさんはやっぱり上手いな。

飄々としてるけど実は重たいものを背負っている役柄。

その抱え込んだものがふいに表出するシーンがいくつかあったけど、そういう演技がとても上手だと思った。

エレナは強い女だけど、硬い鎧の下にはとても脆くて繊細な女性が隠れていて、満島ひかりさんのイメージと合致する。

野木さんが当て書きと言っていたけど、本当にぴったり。

孔と初対面のときにいきなり下の名前で呼んだり呼ばせたり、時差が…と冗談っぽく笑うのに少し引っかかっていたけど、真相を知ってから思い返すと腑に落ちた。

 

緊迫感ある焼き鳥爆弾事件が落ち着いた後の、エレナと孔のリラックスしたシーンがすごく好き。

急に距離が縮まったようでよかったな。

余談ですが、この爆弾を処理する丸山智己さんがかっこよすぎた。もっと出てきてくれてもよかったのに。

 

この爆弾騒動に繋がった「エレナが倉庫内の商品を買う」という設定、(昔は欲しいものを自由に手に入れられなかったから)欲しいものは「全部」と答えるシーンと、倉庫内の商品で秘密基地みたいな空間を作っちゃうおもしろシーンからすべて繋がっていて、流れの美しさに脱帽。

 

宇野祥平さん演じる佐野(息子)が、質はいいけどコストがかかる洗濯機を作る会社に勤めていて、会社が倒産したくだり。

切ないねぇ…と思っていたら、最後にあんな爽快な伏線回収が待っていたなんて!

出てくるものすべてに意味があった…!

 

エレナの働きかけにより配送料上乗せは叶ったものの、当の配送業者は「焼け石に水」と言っていたし、デリファス的には経費が増えた訳だから、利益を上げるため今までよりノルマが厳しくなりそう。

山崎(中村倫也さん)が飛ぶことになった原因の解決にはなっていない気がする。

孔が最後に山崎の落書きを見て息を詰めてたシーンには不安を覚えたし、今後も悲劇が繰り返されないとは限らない。

 

ディーン・フジオカさん演じる五十嵐も、平気そうにはしているけどいつ溢れるかわからないコップを隠しながらギリギリで働いてるんだろう。

上司に詰められてエレナの手柄を横取りしたのは、自分の評価を上げるためというよりは窮地に立たされた自分の身を守るための苦渋の選択のように見えた。

ふと山崎のことを思い出しては、自分もいつか…みたいな思いがよぎることもあるのかな。

最後のほう、五十嵐が自分のIDを手すりの上でスーッと滑らせながら歩いてて、途中で手すりの出っ張り?にカンッて当たって止まるシーン。躓きの暗喩か何かかな。

近いうちにデリファスを辞めるんじゃないかと思ってしまった。

 

実在の企業を思い出さずにはいられない本作だけど、問題提起もしつつ必要以上に責めすぎない、というか企業だけが悪いわけではなくそれに依存している消費者や仕組みそのものを変えないとどうにもならないよね、という結論に落ち着くあたりちょうどいいバランスだと感じた。

 

私の願望強めの考察だけど、デリファスを解雇されたエレナは現代のEC・物流の仕組みの問題そのものを解決するために何らかの行動を開始するんじゃないだろうか。

終盤、エレナが本社のサラと話していたシーンで「爆弾はまだある」と言っていたの、自分のIDを封筒に入れながらだったので「これを返送する=辞める」ことを指しているのかと思ったのだけど、既に解雇されているのに辞めることを「爆弾」とは言わないよね。

デリファスに送る爆弾としては、デリファスへの打撃(攻撃が目的ではないけど、根本的な解決のためにはEC企業への打撃は避けられない)を与えるものとして、EC・物流の問題を解決するための行動というのが個人的にはしっくりきた。

 

その他雑感。

 

MIU404の曲はテンション上がりますね。

得田真裕さん好き。

…と思って調べたらアンナチュラルもラストマイルも得田さんだった。

全然テイスト違うのにすごい。

 

MIUの2人は、あんなにかっこよかったっけ?

アンナチュラルチームもMIUチームも、出演時間が短いからこそ仕事人感が出ていてかっこよかったな。ドラマ観よ!

 

アンナチュラルのときは学生バイトだった久部くん(窪田正孝さん)が研修医になってたのアツい。

法医学の道に進むのか目の前の命を助けるお医者さんになるのかわからないけど、どちらを選んでも彼はたくさんの人を救うんだろうな。

 

大倉孝二さんスタイルいい!

真面目な役を演じてる大倉さんはかっこいいね。

そうじゃないときも好きだけど、ギャップがいいのよ。

 

アンナチュラルに望月歩くん出てたの知らなかった。

映画観終わってから調べて「あのときの!」ってなったけど、ドラマ当時は望月くん知らなかったからな。

MIUの前田旺志郎くんもだけど、いい育ち方をしてくれてありがとうの気持ち。

若い子のこういう展開にはウルウルしてしまう。

 

中村倫也さんは、サプライズ出演だったんですね。

映画公開から情報解禁までの間にSNSとかで出てたって情報を見かけなかったけど、みんなサプライズだと知ってちゃんと黙ってたのかな。

私だったら、あらかじめ出演者把握していないので「知らなかったけど中村倫也でてた!」とか悪気なく呟いちゃいそう。危ない。

中村さん演じる山崎は、この映画の鍵を握る人物。

個人的にはバサラオを観た直後ということもあり、あの中村倫也をこの使い方で!?贅沢!!という感想です。

 

最後に、この映画のタイトルについて。

観る前は、タイトルから勝手にラストワンマイル=配送業者の人が起こした事件なのかと思っていたけど、全然違った。

阿部サダヲさん演じる八木が昔は誇りを持ってた、と語っていたけど「ラストマイル」は最後の一区間(の輸送)のこと。

なくてはならない存在のはずなのに、作中で大企業からは叩かれ、お客さんからも大切にされず、観ていてつらいシーンもあった。

ああいうことばかりではないはずだし、自分にできることはあまりないけど、配達に来てくれるお兄さんにはちゃんと感謝を伝えようと思いました。

 

書きたいことを全部書いていたらいつも以上にまとまりのない文章になってしまった。

公開中にもう一度観るのは難しそうだけど、ドラマ2作を見返してからもう一度映画観たいと思います。

でも、そのときはAmazon Primeで観ることになるのかな。ちょっと皮肉…